増加する高齢者の認知症と相続対策(後見人と信託)その5

これまでのシリーズ4回にわたって後見人制度を見てきました。「後見人制度は必要と思われる場合もあるが何となく使いにくい」、そう感じられた方もおられると思います。その理由は何でしょうか、その不便さを解決する方法はないのでしょうか。今回はそれを見ていきます。

後見人制度の限界

第2回で述べたように後見人の役割は身上監護と本人の財産管理です。

ここでの財産管理とは判断能力のない者に代わって本人の財産を保全する役目であって、法定監督人や裁判所の監督下に置かれます。そのため、あくまで本人のために行う財産管理であって、推定相続人や親族のため、あるいは相続や相続税対策のために財産を整理処分することはできません(任意後見契約の場合には後見人に特定の行為を委任することはできます。)。

本人のための積極的な投資、財産の組換えもできません。もちろん、後見制度ですので相続時財産の対策として遺言の代わりにはなりません。

民事信託の仕組み

一般的に相続における信託といえば、信託銀行等が報酬を得て行う遺言状の作成保管、遺言の執行ということでした。

しかし、平成19年に信託法が改正され、報酬の支払いなしに自分が信頼できる者に財産の管理を委ねる非営利型の信託(民事信託)が認められるようになりました。財産の管理をする人は家族になることが多いので「家族信託」ともいいます。

民事信託も信託契約ですので、

  • 委任者(財産を保有している人)
  • 受託者(財産を管理する人)
  • 受益者(財産を使用収益、処分することにより利益を得る人)
  • 信託監督人(受託者を監督する人)

がいて(委任者または受託者と受益者が同一でも構わない)、受託者は受益者のために財産管理をすることになります。同じ財産管理といっても後見人の行う財産管理が「本人のためであること」と違いがあります。

この信託契約は委託者と受託者との信任関係の上に成り立つものですから、公正証書による必要があります。また、本人の判断能力が衰える前に契約する必要があります。

民事信託でできることとデメリット

民事信託においては、受託者は信託契約によって本人(委託者)がなくなる前においても財産を処分・分配できます(認知症発生後でも)。このことは認知症発生後でも信託契約は継続しますので、認知症発生後も相続税対策を継続できることになります。

信託契約によっては、受益者が死亡したとき、次の受益者を前もって決めておくことができます。つまり相続人がなくなった後の次の二次相続人を決めておくことができます。(例えば本人死亡後は自宅は配偶者に相続させて、配偶者死亡の後その不動産は長女に相続させたりすることです。)

民事信託により、財産の管理処分権は信頼できる一人に任せて、収益や処分権を分配することができます。不動産や会社の株式など管理や経営は一人に集約して、他の相続人はそこからもたらされる収益や処分益を享受することができます。

民事信託のデメリットとしては、契約や認知症発生後の施設への入所などの法律行為はできません。後見人で述べた身上監護は民事信託では対応できません。また、民事信託は遺言と同様な効果をもたらすことができますが、信託契約の内容によっては遺産分割が必要になります。この場合、受託者は本人の代理でないので受託者の権限で遺産分割をすることはできません。

遺言との違い

遺言は相続時の財産の分割について定めるものであって、相続前、相続後の財産の管理・処分について定めるものではありません。この点から上手に民事信託を使うと遺言よりも幅広く本人の意思を次世代まで具体的に指示することができます。

上手に使い分けましょう

5回にわたり、後見人制度を中心に民事信託制度まで述べてきました。遺言だけに頼ることなく、これらの制度を上手に使いましょう。このシリーズでは触れませんでしたが、死後事務委任契約などと組み合わせることもできます。これらの制度は一つを選択するのでなく、目的に応じ2つまたは3つを選択して使うことにより、次世代への財産のより円滑な移転ができます。

都合により5回でこのシリーズは終わりとなります。そのため今回、民事信託については十分な説明ができませんでした。民事信託のより具体的な利用例については、改めてお話しさせていただく機会をもちたいと思います。長い期間ご購読いただきましてありがとうございます。

ひまわり税理士法人
平野 裕二

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